映画ログ

これまで観てきた映像作品の備忘録

「少年と自転車」

 

少年と自転車 [DVD]

少年と自転車 [DVD]

 

 評価:★★★★

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ダルデンヌ兄弟制作の映画。主人公は父親から見捨てられて孤児院に預けられていた少年・シリル。

彼はいつも自転車と一緒である。ある日,偶然知り合った女性・サマンサと週末だけ孤児院を出てともに生活するようになる。シリルは彼女だけには心を許すものの,自分を見捨てた父親への愛着をなかなか捨てきることができない。父親から愛されることのないシリルは苦しみ,自らを傷つけ,サマンサを悩ませる。彼の満たされない承認への欲求に,近所に住む不良青年がつけ込みはじめる。自分に親切にしてくれる青年に対してシリルは無上の信頼を寄せるようになり,サマンサのことを省みなくなる。シリルは青年にそそのかされて盗みを働き,使い捨てにされてしまう。シリルは盗んだお金を父親のもとへの届けようとするが,やはり父親は振り向いてはない。結局シリルは,それでも自分のことを信じ,愛し続けてくれるサマンサと暮らすようになるが,一度罪を犯した彼の生活になかなか平穏が訪れることはない。

人間は生きていくうえで,とくに子どもから一人前の大人になっていくうえで,無条件に自分のことを愛し,認めてくれる存在を必要とするのだろう。この映画を観て強くそう思った。そうした存在になりうる可能性がもっとも高いのは親だが,親が必ずしもわが子のことを無条件に愛せるとは限らない。

そうしたとき,社会の仕組みとして必要になるのは,親のかわりに自分を愛してくれる存在と子どもとが巡り合うチャンスを広げることだ。しかし,当の子どもは親のことを愛してやまず,そのかわりとなる存在に心をひらいてくれない場合どうするか。そうした難しい問題が,この映画からは見えてくる。