映画ログ

これまで観てきた映像作品の備忘録

「舟を編む」:業を成すということ

 

舟を編む 通常版 [DVD]

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 評価:★★★★

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同名の小説が原作。辞書の編纂に人生の長い年月と精魂とを賭けた人びとを描いた作品。

出版社である玄武堂の辞書編集部は、新たに辞書の編纂にたずさわる人物を探していた。同社で働きながらも、人づきあいが苦手なその性質から、周囲から浮いてしまっていた馬締は、辞書編集者としての資質を見抜かれ(?)、辞書編集部へと引き抜かれる。馬締は、新たに辞書編集部で刊行する国語辞書『大渡海』の監修者・松本や、長年にわたって辞書編集部で辞書の編纂にたずさわってきた荒木などから刺激を受けることで、自らの天職を辞書の編集に見出す。彼は、同僚の西岡や、新入りの岸辺などと協力しつつ、『大渡海』の編集作業をつづけていく。しかし、辞書の編集という道程は、10年以上もの歳月を、「言葉」という果てしない対象と向き合う、尋常ではない過酷なものであった。

一方、馬締は下宿先の家主の孫で、宮崎あおい演じる香具矢と出会う。彼は彼女に一目惚れし、一方の香具矢のほうも、独特の雰囲気をもった馬締という人間に次第と惹かれていく。

昨日、NHKの連続テレビドラマ小説『マッサン』を観ていた。その『マッサン』の内容にも通じることではあるが、この作品を観ていてもっとも強く感じたことは、自らの「業を成す」ということがいかに過酷であり、その一方で、いかに魅力的であるかということだ。通常、この社会で生きる人びとがおこなう「仕事」は、せいぜい年単位、どんなに長くても10年未満にて完結するものがほとんどだ。しかし、ある一部の人びとは、自らの天職、人生をかけて成すべき「業」を定め、それに対して10年、20年、30年という、文字通り人生の大部分の時間を投入する。それは辛く険しい道であることはもちろんだが、その道を歩む姿は、多くの人びとに感銘を与える。そしてそうした人生こそが、ある意味では生きるに値するものだと思わせてくれるのだ。

キャストも素晴らしい。この作品で日本アカデミー賞主演男優賞を受賞した松田龍平は、大学院で言語学を専攻し、周囲の社会とうまく渡り合うことのできない馬締というキャラクターを見事に演じている。また、宮崎あおいは本作品で板前役を演じており、とっても素敵。

「カジノ」

 

カジノ [DVD]

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 評価:★★★

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マーティン・スコセッシ監督作品。マフィアの実質的支配下にあった1970年代のラスベガスを舞台にした、実話をもとにしたストーリー。

ロバート・デ・ニーロ演じる主人公、サム・“エース”・ロススティーニは、賭博のセンスに長けた人物で、ラスベガスのカジノ、「タンジール」の実質的な支配人として活躍する。彼の幼馴染みであるニッキーは、喧嘩っ早くも頼りになる用心棒として、ラスベガスの栄光の階段を昇るサムと手を組んでいる。用心深く、欲を表に出すことはしないサムであったが、タンジールで出会った女性、ジンジャーにひと目惚れし結婚したことから、彼の栄光と、彼を取り巻きカジノを仕切るマフィア仲間たちの崩落が始まっていく。

この映画の特筆すべき点として、まずはマーティン・スコセッシの作るその世界観が挙げられる。彼が作りあげる作品は、レオナルド・ディカプリオが主演した「アビエイター」なども同様に、一見華やかな世界のなかで繰り広げられる、人びとの栄枯盛衰を見事に描いている。この作品においても、ラスベガスのカジノという豪華絢爛な舞台の裏で繰り広げられる暴力、陰謀、ドラッグ、不貞などなどが微細に描かれており、その手腕がいかんなく発揮されていた。

くわえて、ロバート・デ・ニーロの演技力も、この作品の魅力の1つであると言えよう。彼の演技が作り出す、冷静沈着なペルソナの裏で、神経質なまでに「信頼」を求めるサムというキャラクターは、この映画において神秘的な輝きを放っている。

「宝石も金も 信頼に比べりゃ屁と同じだ

命を預け合うのが夫婦だ」

 

「シティ・オブ・ゴッド」

 

シティ・オブ・ゴッド [DVD]

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 評価:★★★★

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実話をもとにした映画。1960年代から1980年代にかけてのブラジル・リオデジャネイロのスラム街で繰り広げられるストリートチルドレンたちの抗争を描いたもの。

主人公ブスカぺは争い事が嫌いだったが、周囲の人間たちによって繰り広げられる暴力、強盗、ドラッグ、性愛の渦のなかに少なからず巻き込まれながら生きている。自称「街のキング」を名乗るリトル・ゼや、その敵であるセヌーラともかかわりを持ちながら、ブスカぺは、みずからが好む写真をとおして、リオデジャネイロのスラム街の現状と、絶え間ない暴力と憎しみの連鎖を記録するようになる。

この映画のすごいところは、主要キャストのほとんどが、実際のスラムでオーディションをおこなって集められた人びとであるという点であり、それが映画自体にリアリティを与えている。

「最強のふたり」

 

 評価:★★★★★

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実話をもとにしたドラマ。

主人公は、下半身不随の障害者となった富豪・フィリップと、貧困家庭に育ちながらひょんなことからフィリップの世話係となったドリス。障害をかかえていることもあり周囲に対して壁をつくって生きているフィリップに対し、介護や障害といった概念をもたないドリスは、あくまで彼を1人の人間として相対する。そうしたなかで、それまで全く異なる世界に生きていた2人は、次第に心を通わせていく。そうした過程を、この映画は終始コミカルに描いている。

障害者の自立生活の困難、移民社会フランスの貧富の格差といった深刻なテーマを背景にチラつかせつつ、作品全体にはつねにどこか陽気な雰囲気が漂う。フィリップとドリスの気の置けないやり取りには、ついつい声をあげて笑ってしまう。これがこの映画の特異なところだ。