映画ログ

これまで観てきた映像作品の備忘録

「アメリカン・スナイパー」

評価:★★★★

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クリント・イーストウッド監督最新作で、2015年アカデミー賞作品賞にもノミネートされた作品。早速、映画館で観てきた。

主人公クリス・カイルは、テキサス州で育った心優しき荒くれ者。カウボーイになることを目指していたが、あるときテレビに映った戦争報道を目にして一念発起、特殊海軍部隊ネイビー・シールズに入隊する。その後、イラク戦争の勃発でイラク入りし、次々と敵を射殺、「伝説野郎」と呼ばれる。母国アメリカに残された愛する妻からは、軍人として戦地に赴くことに反対されるが、仲間のため、そして母国アメリカのためを思うその強い正義感から、クリスは度々イラクへと向かい、敵を殺しつづける。そうした戦争の経験は、いつしかクリスの「心」をも蝕んでいく。

クリス・カイルは実在した人物である。彼は軍を除隊したのち、退役軍人たちへの精神的なサポートの意味を込めて、射撃場などへ彼らと同行する活動をおこなっていた。2013年、彼はその活動の最中、1人の退役軍人によって射殺されこの世を去った。クリスを射殺した退役軍人は、統合失調症に侵されていたとのことで、その意味では、クリスもまた戦争の「犠牲者」と言えるのかもしれない(ちなみにこの退役軍人には先日、執行猶予なしの終身刑が下された。これは、彼が本当に統合失調症を患っていたとすると、通常考えられるよりも重い量刑だと言える)。

強く誠実な1人の男が、愛する家族を守るため、そして彼ら彼女らが暮らす母国を守るため、残酷な戦地へと赴く。そしてそれが皮肉なことに、愛する家族との物理的・精神的な距離をつくっていく。クリスに限らず、こうした正義感強き人びとが戦争という舞台には多く登場し、そして同じような境遇に置かれているのだろう。

クリスの妻がクリスに対して発したセリフが印象的だ。「戦争によって影響を受けない人はいないのよ」。これは、監督であるクリント・イーストウッドから現代社会へのメッセージかもしれない。

本作品には、同じくイラク戦争を題材にした映画「ハート・ロッカー」を思い出させる節がある。これらの作品を観ることで戦争の現場を追体験できるわけではもちろんないが、しかし、こうした作品から感じられる戦争なるものは、いずれも「無情」である。

社会秩序を保つため、あるいは国家の自律性を確保するため、これまで戦争は恰好の「装置」であり「手段」であったかもしれない。しかし、今日を生きる私たちはそこに「無情」を感じざるをえない。上記2つのような目的を達するうえで、戦争をおこなうことはある種やむをえないという議論があとを絶たない。しかし、戦争のみがその採りうる道筋であるわけではない。だとすれば、戦争に「無情」を感じざるをえない私たちは、同時に、戦争以外の道筋をも探さざるをえないといえるのではないだろうか。