映画ログ

これまで観てきた映像作品の備忘録

万引き家族

是枝裕和監督作品。

高層マンションが建ち並ぶ街の片隅にある平屋で,小さな男の子(祥太)を含めた血の繋がりのない5人が身を寄せ合って暮らしている。中年の男性(治)は日雇い労働者として働き,男性のパートナーである女性(信代)はクリーニング店でパートをしている。実家を飛び出してきた大学生くらいの女性(亜紀)は風俗店で働き,その女性の祖父の元妻である老女(初枝)は年金をもらいながら暮らしている。そして,祥太は治とともに,万引きをすることによって「家族」に「貢献」している。そんなふうにして,この「家族」のような人たちは暮らしていた。

ある日,祥太と治は万引きの帰り道に,団地のベランダに出された女の子(ゆり)を見つける。寒空のなかお腹を空かせたゆりを家に連れ帰ってみると,彼女の身体のあちこちに傷が見つかる。同じく暴力を受けた経験のある信代は,ゆりをもといた家族に返すことはせず,一緒に暮らしていこうとする——。

印象に残った2つのシーンがある。1つは,亜紀が働く風俗店の常連客(「4番さん」)と,亜紀が対面するシーン。「4番さん」の拳には傷があり,聞くと自分を殴ったのだという。亜紀が共感を示すと,「4番さん」は1粒の涙を流す。それをみた亜紀が「4番さん」を抱きしめると,「4番さん」は声を出そうとするが,彼は吃音でうまく話すことができない。一方では,あまりに作り込まれた設定とシーンだとも思うが,他方で,「4番さん」が亜紀の店に来るまでに経験した苦しみが凝縮されて表出されているようで,思わず目が潤んだ。

もう1つは,民生委員の男性が平屋を訪れる場面。民生委員の男性は玄関に招き入れられると,上り框にハンカチを敷いたうえでそこに座る。あたかもそのまま座ると汚いとでもいうかのように。民生委員は地域の名望家だが,身寄りのないひとりの老人に親身に寄り添う姿勢とは乖離するような振る舞いがおもしろかった。